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1970年代の芸術新潮には、面白いコーナー・企画があった。十数人のアーティストに特定テーマで短いコメントを寄稿してもらうというものだ。[ぴ・い・ぷ・る]という見開き2Pの企画で、ずいぶん長く続いていた。 編集者の加工はあるだろうが、鋭い考察や、得がたい体験談もあった。 なかでも「書棚」というテーマで現代アート作家:故:高松次郎氏が書いたコメントは面白かった。私自身の経験からしても、すざまじく身につまされる鋭い見解である。おそらく高松次郎氏の経験もいくらか反映しているのだろう。得がたい文章だと思うし、検索しても出てこないということもあり、抜き書きに引用させていただく。 藝術新潮 1974年5月号 第25巻 第5号. ぴ・い・ぷ・る : テーマ「書棚」 11人のコメント、5人の写真 書籍戦争 / 高松次郎 > ≪書籍戦争≫一戸の家屋がそっくりそのまま書棚であるような住宅をぼくはいくつか知っている。その建造過程は一種の戦争である。元来、書棚の本というのは増殖するものなのだ。本は本を呼び、雑誌は雑誌を呼び寄せる。書籍は書棚からあふれ出し、机や床を占拠し、書斎全体を書棚にかえてしまうと、次は他の居住空間への侵略を開始する。廊下や応接セットを占拠し、ひどい場合になると書籍にうずまったテレビのスイッチを入れるときなど、何十冊もの本の移動が行われたりする。かくして玄関に至るまでが書棚と化すと、つまり大工の手をわずらわせることなく、一戸の家が巨大な書棚に改築されると、ほぼその戦闘は休戦状態に入る。その場合、古本屋が国連的な役割をはたすことが多い。しかし、書籍軍(群)に追われ、その強大な書籍国をそのままにして、 家族全員、別のマンションに亡命したような例もぼくは知っている。 > #
by reijiyam
| 2025-06-08 08:15
| 抜き書き
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![]() 忘れ得ぬ人々 序言 矢代幸雄、忘れ得ぬ人々 その1 大和文華 14号 昭和29年6月 奈良、64-76P から抜き書き > 歴史を作るものは結局は人である。人の事績の大切な点を適切なる判斷を以って知ることは、歴史の精髄を具體的に知ることである。私はその意味で、誰かの人生の事実に即したる回想録(メモワール)的文学を讀むことを喜びとするが、また顧れば、私自身も昔を語りうる年齢に達したと思はれる。私の接触した人々に思ひかけず偉い人もあり、またその事蹟を伝えておくことが将来の人々のためになる場合も、屡々あるやうな気がする。近頃の若い人々を見ると、大戰爭が挟まったせいか、實に昔の事を知らず、また知らうともしないかの如き様子がある。これは現代のはげしい時勢の進運とも言へるが、また知らないために随分損をしている場合もある。何となれば、人間は過去の集積の上に立ち登って、更に向上するからである。 私の記憶のうちに去来する忘れ得ぬ人々は數は多いが、本稿に於ては美術界に功績ある人々に限らうと思う。そうすると、私は當然本稿を、私を育ててくれた故正木直彦先生を以って始める可きである。然し正木先生の日本美術界への影響力は大きく、また先生と私との一生涯を通じての接触も、容易に書き得ることではない。それで私は非常な大物である正木先生を後廻しにして、珍しい大學者であったにも拘わらず、今は比較的人に忘れられ勝ちの大村西崖を先づ最初に取り上げることにする。 > ******** この部分は、なぜか、岩波書店刊行 矢代幸雄美術論集1 / 矢代幸雄∥著 / 岩波書店 , 1984.2 からは削除されている。不思議としか言いようがない。初出の大和文華で読んだとき呆れてしまった。そういうこともあり、できるだけ、原文の漢字用字をそのまま再現することにする。 #
by reijiyam
| 2025-06-01 16:51
| 抜き書き
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![]() 書道 第八巻第十一号 昭和14年 泰東書道会から、抜き書き 中村不折 しかるに、先年、大正十一年頃であった。支那公使の胡維徳といふ人が法帖を見に来いといふので出懸けた。澤山陳列してあったがこれといふよいものも見當らなかった。最後の一室の小暗い処に見出したのが、舊拓のであった。一字も欠損して居ない神采の爛々たるものであった。一見実に卒倒しさうに感じた。それから御馳走になったが、その席であつかましく胡公使に割受を迫ったが、公使は只笑ってのみ居って相手にしない。猶も根強くねだってとうとう拙画と交換する約束で持ち帰った。本號に撮影したのがこれである。 *************** 上イメージは、 2011年、東京国立博物館・書道博物館共催、特別展「拓本とその流転」、図録から。「拓本とその流転」、図録では、「胡維徳」を「顧維徳」と誤植しているので要注意。 ただ、公共的な施設に所蔵されているものは、この書道博物館のものだけかもしれない。未確認だが、成田山書道博物館に松井如流先生旧蔵のものがあるかもしれない。 清末以降の新しい拓本は、かなり多く所蔵されているが、字がかなり改竄されているので問題がある。大阪市立美術館の岡村コレクションの拓本にあるものも旧拓本ではない。書壇院のものも旧拓本では無い。 #
by reijiyam
| 2025-05-12 18:14
| 抜き書き
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![]() 上イメージ 大英博物館 女史シン図巻の一部 奥村 伊久良、孝子傳石棺の刻畫に就いて(上), 寶雲、第20冊、寶雲刊行処、昭和12年(1937年)8月30日、京都 から抜き書き > 支那山水画の主要な部分は山嶽である。支那人は古より山嶽を美術作品に表現することを好んだ。エジプト、ギリシャなどなれば花や草葉を用ゐるべき筈の柱頭や衣服の模様に山の姿を応用したことは周代の文献に記されてゐる。他国には類いのない意匠である。山嶽の姿をした観賞用作品として、小さなものでは日用の小容器、大きいものでは数十丈の築山が幾多製作せられた(原注)のも紀元以前からのことである。 山嶽の彫塑像をこんなに熱心に作った美術史は他にないやうである。支那絵画史と云えば山水画が主要な部分を占めているが、支那畫発展を徹頭徹尾貫流し鼓舞した、あの異常な山水愛好は、かくの如く支那美術史の初期から已に姿を現してゐる。西洋美術史はギリシャ美術の初頭、エーゲ海時代の始めより裸體に偏執的な興味をもってゐて、古朴な技術ながら白大理石の女人裸像を数多つくり、小さな壺まで人體にかたどり、其後の西洋美術史は云はば裸行列の観がある位、今でも絵画の入門は裸體の素描から始めるべきであるとせられてゐるが、支那ではこれが山嶽に入れ替わっていて、絵画の入門はー裸體など滅相なー石を描くことから始めるべきであるとせられてゐる(芥舟學畫編)。国によって描くものと描かぬものとがある。花の意匠が支那に出現するのは3世紀より後であろうが、雷文や怪雲や龍や山嶽がー優美な裸體や花模様ではなくて岩だらけの山が好んで描かれたのは歴史の殆ど最初からのことであり、今でも愛用せれれてゐる。この厳めしい趣味は支那美術の著しい特色である。 > 原注 > 容器の蓋、或いは容器全體を山嶽の形につくることは博山爐などの一類があるが、大形のものでは高さ数十丈の築山や天山廬山等に似せた墳ー山の肖像彫刻ーがある。古代の築山については、本誌にも、曾てその研究を発表せられた小杉一雄氏の諸論文があるし、北京には元明以後の諸傑作(中にも北海の瓊華島、即ち昔の太平山)がのこってゐて、今でも古代の仮山の趣を體験することができる。それは素晴らしい大作であって、楼閣、寺観、複道、曲廊、水亭、劇場、奇岩、石像、碑カツ等を配置した色美しい別世界今はホテルや夏期の貸別荘に利用してゐる。三間幅の大道路や曲がり曲った長い奇岩のトンネルなどで頂上に達すると、眼まひがする程高くて足元を見ることができない。風は外套を吹き上げネクタイをはためかせ、まるで空中に立ってゐる様な感じがする。まことに神仙趣味である。 > ***** 奥村伊久良(おくむら・いくろう)(1901-1944) 原注の文章は戦前の北海を訪れた北京紀行文としても、生き生きとした名文だと思います。香港迷の山口文憲氏の名文「南Y島」を思い出しました。 ただ奇妙なのは、ネットで寶雲の目次全覧をみると次号掲載が無かったようにみえることです。次号以降で、(下)が掲載されていない。編集者の森暢氏も癖のある人だから対立したのかもしれないなあ。力作なのに惜しいことでした。 西洋のギリシャ・ローマ以来の人体裸体美術の伝統は、東洋からみるとかなり異様なものです。しかし、中国の岩石や山岳を鑑賞する伝統もまた、かなり変わっていると思います。この岩石鑑賞の伝統が山水画を生んだのは確かだろうと思っております。日本にも巨石信仰はあるし庭石の愛好はあるが中国のような怪石趣味はない。岩石怪石を絵画に好んで描くという習慣も中国趣味を輸入した文人畫を除けば無いようです。 下イメージは、画手本としての木版画集である「天下有山堂画藝」の1画面 なお、 奥村伊久良 みすず書房のサイトに略伝があります。 https://www.msz.co.jp/book/author/a/15412/ おくむら・いくろう ![]() #
by reijiyam
| 2025-05-10 15:48
| 抜き書き
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![]() 東方教会の代表的教父:聖ヨハネス・クリュシモコス(ACE347?-407)の言葉 「淫蕩に傾くものは、同情心があり、慈悲の心に富んでいる。純潔に傾くものは、そうでは無い。」 「生誕の災厄」第7章の フランス語原文から出口氏の訳文を参照しながら拙訳。 #
by reijiyam
| 2025-05-04 17:06
| 抜き書き
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