![]() ![]() 上野の西洋美術館に昔から展示されている初期ネーデルランド絵画の三翼祭壇画(トリプティック)は、日本の公共美術館では唯一の例だと思う。 ヨース・ファン・クレーフェ[1485年頃 - 1540/41年]:三連祭壇画:キリスト磔刑 https://collection.nmwa.go.jp/P.1976-0003.html 16世紀のイタリア・ルネサンスの影響を受けたロマニストのものだし、人物表現肉体表現は、ロヒールやメムリンクのような純粋の初期ネーデルランド風のものとは違うのだが、それでも、三翼祭壇画(トリプティック)の実物を日本で鑑賞できるのは貴重である。 この作品では、背景のパティニール風背景が美しい。確かに一部分に補筆上塗りを見いだすことができるが、小部分であり、「保存が良い」ほうだといえる。メトロポリタン美術館に同じ画家の作品があるが、見劣りはしないと思う。 https://www.metmuseum.org/art/collection/search/436792 イメージは当方の撮影。少し光ってボケてる。 この作品を入手したときの秘話を当時の館長の故:山田 智三郎(やまだ ちさぶろう、1908年10月11日 - 1984年4月11日)氏が書いていたが、古い雑誌(REF)だし、皆から忘れられているだろうから、ここに最重要部分だけ引用させていただく。山田館長が師事した矢代幸雄氏の言のように、 2009年5月13日 矢代幸雄の述懐 昔のことを知ろうともしない連中(2021年現在80代)も多いのだから。 *****引用 **** ....前略.... 実は、私はこの絵を人に頼んで国立西洋美術館のために落札した(Christie's, London, 26 November 1976, lot no. 39)。ロンドンの専門家に見て貰ったところ 保存が非常に好く、修理も少ないことが分かったし、作品が日本に着いてから支払っても好いという特別の契約を結ぶことが出来たからである。購入委員会の委員には、前もって承認を得ておいた。前にも書いたことがあるように、私は西洋美術館のために、ニューヨークで一回、ロンドンで一回落札することを試みたが、二度ともこちらの指値が低すぎて失敗した。去る6月末、9月号に書いたヴァン・ダイクの「聖母子像」を手に入れようとした時は、西洋美術館の指値が11万ポンドだったのに対し、落札価格は倍近くの20万ポンドであった。そこで今度は、思い切って推定価格の7、8割高までは出すつもりで指値してみたところ、日本の新聞紙上にも報道されたように、8万5000ポンド丁度で落札することができた。札元に納める1割を足すと9万3500ポンドということになる。それでも、こうした絵が画商に出た場合の価格を想像すると割安である。 ....中略... 16世紀初期最大の画家であるマッサイスの作品は、市場に出ることはまず望めない。たとえ売りに出ても、国立西洋美術館の予算ではとても買い得るような価格ではあり得ないから、西洋美術館としては、ヨース・ファン・クレーフの、出来の好い作品を手に入れることが出来たことは幸運であったと思っている。 .....後略..... *****引用 終わり **** ()内は当方の補足。Source Ref. 山田智三郎. 世界のオークションに選ぶ "空想の美術館" 24. 芸術新潮. 1977年 2月号, pp. 106-107p
by reijiyam
| 2021-11-11 08:09
| ニュースとエッセイ
|
Comments(0)
|
ファン申請 |
||