甘泉山刻石

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 これは易均室、謝国楨の旧蔵の旧拓で、初拓に近いかもしれない。


前漢の文字石刻は、後漢に比べたら現在でもかなり少ない。これが出土した嘉慶のころでは、なおさらである。

この甘泉山刻石 の 出土事情は、

阮元の年譜から
嘉慶11年 丙寅 1806年 四十三歳
この年,伊秉綬とともに揚州図経、揚州文粋を編集
この年、甘泉山に登り、恵照寺  台カイ下で石を得た。一石は「中殿第二十廿八」五字、一石は「第百册」三字、翁方綱、伊

秉綬、江藩などの人が研究し、西漢厲王、劉胥の宮殿の石で、曲阜の「五鳳二年石」より早いとした。伊秉綬は揚州の府学に写

した。

当時の学術会のボス、高級官僚であった阮元がみつけてとりあげたものなので、そのもの自体の価値というより新時代後期の書に及ぼした影響のほうが重要だろう。
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出土時に関わった伊秉綬は、上イメージのように臨書をのこしている(ref1)。また趙之謙は二金しょう堂双勾漢碑 にイメージのような「元鳳」を書いているが、拓本のどこにこういう文字があるのかよくわからない(ref2)。あるいは模糊とした第四石からだろうか?同様な刻石は、黄腸石とよばれていて、現在かなり出土している。

この刻石は、出土時にすでにかなり傷んでいたので、その後、文字をはっきりさせようと、かなり無茶な細工・補刻がおこなわれた。そのため、もとの字の線や書風が全く失われてしまった。その悲惨な破壊の結果が下のイメージである(ref3)。
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REF1 書譜 伊秉綬専輯 1983年第2期 総第51期、 書譜出版社 香港
REF2. 書苑、第7巻3号、 昭和十八年三月、三省堂、東京
REF3. 中国美術全集編集委員会 中国美術全集  書法篆刻編1 商周秦漢書法 ,1987の解説文 挿入参考図版、カラー図版は初拓の名品


# by reijiyam | 2019-11-13 09:54 | 蔵書 | Comments(0)

古美術 FAQ

17年以上前、当方が書いた古美術の鑑賞・収集のためのFAQですが、現在読んでもわるくないようなので、一割ぐらい増補・多少改訂して、公表します。

Q. 古陶磁の手軽な本では何がいいでしょうか?

「やきもの鑑定入門」、出川直樹監修 芸術新潮編集部編、とんぼの本、新潮社、1983初版 がいいでしょう。2019年現在まで版を重ねているロングセラーです。出川直樹 氏の著作の中には、あくのつよい本もありますが、これは編集部との共同制作であるせいか、穏当で、図版の選択・印刷もよく、日本・中国・韓国・東南アジアまでとりあつかっていて、とても便利な本です。これの後は、それぞれの好みに応じて、世界陶磁全集(小学館)、平凡社の中国陶磁などの大部なシリーズ本から好きな巻を選んで読むといいと思います。また、大阪市立東洋陶磁美術館発行のカタログはいずれも、そうとう精選され、優れた解説がついていますので、参考書として珍重しています。


Q. 所有している古美術品に、鑑定書を作成してもらったほうがいいのでしょうか?

鑑定書の用途が、古美術商に売るときの便宜であれば、不必要だと思います。一般に日本の古美術商、特に「鑑賞古美術」をメインにしている店は、鑑定書をあまり重視しません。近代の絵画で、画家本人が書いた鑑定書、遺族、友人が組織した研究機関・目録作成機関が出した鑑定書・ラベルなどは、当然尊重されますが、古美術のカテゴリーに入るものは少ないでしょう。骨董商:廣田不弧斎「骨董 裏おもて」(昭和40年三版、ダヴィッド社)には、「鑑定書をみて買うべからず」という一節があるくらいです。昔、鑑定料めあての鑑定者が、いいかげんな鑑定書を乱発したことがあったためだそうです。
フランスでは、鑑定士資格(Expert)のある人が出した鑑定書をつける場合があり、それなりに尊重されているようです。欧州の場合、絵画では、鑑定書の悪用を防ぐため、絵画写真に直接サインする方式がとられているそうです。
箱書、折紙(一種の鑑定書)が日本でも尊重される分野は、茶道具の分野だと聞いておりますが、私は、あまりたしなみがないので、伝聞にとどめておきます。
昔は、「真蹟間違い無し」「神品」とかは書いたようですが、価格は書かなかったようです。買った価格を所有者が書くことはありましたが、鑑定者が書くことはなかったようです。現在、鑑定といえば「価格」が話題になるのは、英国のBBC放送主催「アンティーク=ロードショー」の影響を受けたらしい「鑑定団」番組・ショーの影響かと思われます。

現物以外で、評価が上がる要因は、私の推定ですが、
・買い手の美術商の常連客に、該当分野の書画を収集している人がいるか?
・鑑識の優れた業者が売った商品かどうか?
・有名なコレクターの所蔵品であったか? 
・権威のある美術展に出品/展示されたことがあるか?
・国宝/重要文化財/重要美術品であるか?
というぐらいでしょう。
熟練した古美術商なら箱をみただけで、どこの業者が売ったものかわかるようです。
大手のオークション会社の評価担当も同様でしょう。
ただ、個人間の売買では鑑定書を尊重する人も未だにいるようですし、
骨董業界では軽視されていますが、最近のTV番組の影響も一部にはあるとは思い
ます。

Q.
「古美術骨董など、定年後の年寄りの趣味で、若いものが手を出すべきじゃない」
と言われました。

A.
趣味は好き好きですので、自己負担、自己責任で、他人に迷惑がかからない限り、何をやっても知ったことではないと思います。ただ、一流の収集をめざすなら、遅くとも40代に始めないと難しいかもしれません。なぜなら、まず、眼の老化が始まります。微細な特徴・キズ・修理箇所の観察や、遠くにある壁画などの観察が難しくなります。レンズを使い努力すれば可能ですが、以前より能率が低下します。また、細字で書いた事典・文献の読書が難しくなります。次に体力が落ちるので、遠くの博物館へ旅行したり、大量の美術品を丁寧にみることが、より難しくなります。また、重い大きな美術品を手で持つことができなくなります。次に記憶力が低下しますので、新しい美術品の記憶が難しくなります。
英国の有名な収集家サー=パーシヴァル=デヴィッドが、そのコレクションの中核である清朝宮廷由来の一群の陶磁器を、かなり危ない橋を渡って入手したのが、30代です。また、東京白金台の松岡美術館のコレクションを作った松岡清次郎氏も、20代から収集を始めたそうです。
つまり、「定年後の年寄りの趣味」というのは誤りです。


Q. 本に載っている古美術品を購入したところ、後で、「あの本に載っているものは偽物が多い」と聞き、仰天しました。本さえ信用できないとはなんということでしょう。どうしてこんなことがおこるのでしょうか?

A.「本に載っている」=「信用できる本物」という通念を逆に利用して、まず立派な本を作ってから偽物を売りさばく事件は、大正時代以来なんども起こっています。また、コレクターが自費で自分の収集品を出版する場合、厳しく選択することが期待できないので、必ずしも一流品だけが印刷されるというわけにはいきません。中国の戦前のコレクターには図録を作ったらコレクションを全部売り払ってしまうというような人もいたようです。
参考にする本は定評のあるものを選ぶようにしましょう。

Q.
先輩は「ガラス越しでみたってダメ。買はなきゃわからない。」
とよく言います。博物館で古美術を鑑賞・観察することは無駄ではないでしょうか?

A.
先輩のご意見は、部分的には正しいのです。高価な骨董品を買うと、「本物だろうか? 投じた金額にふさわしいだろうか? 他にどんな人や機関がもっているのだろうか?自慢できるものだろうか?」など様々な疑惑・関心が湧いてきて、いやでも勉強するようになります。また、重さ・表面の肌触り・太陽光線下での色・陶磁器の場合は高台(最下部の足の部分・台)の裏がわかるという点でも有利です。
しかし、勉強をするには世界的にオーサライズされた基準となる名品を知らなければなりません。昔から「良いものを多く観ること」が大事だと言われているとおりです。いかに一流の古美術商でも、ある時点で全ての分野で世界一流品を持っているわけもなく、客に見せることも時間・手間の面から不可能でしょう。また、ガラス越しでない鑑賞の場合、管理の都合から、多数の一流美術品を並べるのは不可能です。まれに、手にとって鑑賞できる機会があるときもありますが、そのとき鑑賞できるものは2、3点ぐらいが普通です。博物館は、多数の水準の高い美術品を鑑賞できる点では、非常に便利だと思います。
また、2流3流の品や偽物をいくら買っても、少しも理解はすすみませんし、逆に誤った見方を刷り込まれてしまいます。その結果、偽物だけを何百点も集める人がでてきます。「買ったから判るようになるとは限らない」のです。
業者やセミプロのなかには「買はなきゃわからない。」と頻繁に言う人もいますが、自分が商売している分野の展覧会には、真剣に通っています。ただ、博物館での鑑賞の限界を過剰に意識しているか、ビジネストークでしょう。


Q.
日本の博物館をわざわざ訪ねても、ガイドブックや美術全集にでてるような、そこの代表作が陳列されておらず、がっかりします。なぜ外国のようにいつも展示しないのでしょうか?

A.
西洋のニスを掛けた油絵・フレスコは、堅牢なので24時間365日の展示でもそれほど劣化しません。ルーブルへ行くといつもモナリザがかかっているのはそのためです。
しかし、日本や中国の紙や絹・木でできた美術品は公開時の光線・空気・地理・湿度変化などによる変色・剥落・劣化が激しいことは、すでに確かめられていますので、どうしても年に1回程度、春か秋ということになりがちなのです。また、展示スペースが小さいため、全部並べることができず、随時交替しているのが普通ですので、そういう事態になります。
外国の博物館でも、倉庫に眠っているものは多いので、我々が知らないだけです。
貴重な休暇を使い、ようやくたどりついた博物館で、おめあての美術品が展示されていないというのでは、腹が立ってしまいます。他処の展覧会に貸出していることもあります。事前に情報を収集し、電話で問い合わせるなどして、確かめておくことをお薦めします。
また、私立博物館の場合、館によっては、事前にグループ参観として交渉すれば、しかるべき費用を払って、特別におめあてのものを観せてくれることもあります。


Q.
中国の古美術品については、中国人に相談しないと解らないのではないのでしょうか?

A.
日本人ならだれでも、藤原行成や雪舟や仁清を詳しく知っているとはいえません。
同様に、中国人でも極少数のエキスパートは知識・経験とも日本人・欧米人の中国美術のエキスパートと同等あるいは優れている人がいると思いますが、それ以外は劣っていると考えてよいでしょう。
例えば、ロンドンのデヴィットファウンデーションは、台湾の故宮博物院にも匹敵するような、優れた中国陶磁器の収集ですが、イギリス人が自分の鑑識を磨いて収集したものです。現在、北京のオークションで出品されているものから判断しますと、北京のオークションで購入している中国大陸の収集家は、玉石混淆、あまり水準が高くない人も多いと思います。
中国人にしか解らないものなら、日本人が鑑賞・収集すること自体意味がなくなってしまうはずです。

Q. 
貴方が賞賛されるものには、国宝・重要文化財でないものが多いように思われます。
国宝をまずとりあげるべきではないでしょうか?

A.
国宝・重要文化財を指定している文化財保護法は、本来、美術品の価値を決める法律ではありません。本来、「海外流出防止」と「修理・保存の助成」「公開促進」が目的です。
「日本の歴史・文化にとって重要なもの」という判断基準で指定するので、欧米や中国のものは、いかに重要で貴重なものでも、あまり指定されていません。また、美術的価値はあまりないが、歴史的には重要な文書類などが多く指定されています。
明治初年の廃仏棄釈にともなう破壊を反省して、明治4年「古器旧物保存方」の太政官令、昭和4年に「国宝保存法」が制定されてます。ボストン美術館に「吉備大臣入唐絵詞」という平安時代の絵巻物が流出して、「重要美術品等ノ保存ニ関スル法律」がつくられ、更に、法隆寺壁画の火災という大惨事のあとで、文化財保護法がつくられました。敗戦後の緊急事態では、流出防止のため「重要美術品」などずいぶん急いで指定したらしく、指定物件のうちわけをみると、歴史資料と美術品が混在し、あまりバランスが良くないように感じます。
こういう経緯ですから、「国宝」「重要文化財」「重要美術品」だからといって必ずしも世界的な一流美術品であるとは限りません。ちなみに正倉院宝物は「国宝」ではありません。
もっとも、「国宝」「重要文化財」「重要美術品」という名がつくと、同じものでも価格は跳ね上がるそうです。


Q
美術館・博物館でみるラベルの名前は難しい漢字が多く、ルビがあってもなんのことかわかりません。ルビがなかったら読めないことも多く、横の英語のキャプションを読んでわかったことさえあります。あまりにも不親切ではないでしょうか?

A.
博物館・美術館は教育機関として位置づけされているを考えると、ルビがないのは大いに問題です。最近は、ルビをつけている場合が多くなっていると思います。
正倉院のように古代の文書があって、造った当時どういう名前だったかわかる場合や、美術品自体に題名がついている場合は、難しくてもその名前を採用しないわけにはいかないのです。そのため、どうしても難しくなるのですが、()をつけて翻訳!?したり、簡潔な説明をつけることも必要かと思います。


Q. 殆どの日本の博物館では展示物の写真を撮ることができません。絵葉書も図録にも写真図版がないものは、困ってしまいます。海外では撮ってもいいと聞いているのですが?
A. 確かに印刷物がまったくないものは、困ってしまいます。国宝と重要文化財の場合は、網羅した本が大きな図書館にはあるので、それからコピーすればいいでしょう。
また、意外と他の美術全集や展覧会カタログ、専門書に載っていることも多いものです。ただ、近年の作家の作品の場合と、立体物の場合は著作権・写真著作権がありますので使用には注意しましょう。
どうしても写真がほしい場合、責任者がいた場合は直接たのむといいでしょう。いなかった場合は、展示物の名称を詳しくメモしておいて、郵便で丁重に依頼すると、道が開けることもあります。
自分で撮る写真は、プロが撮る写真と比べたら到底及ばないことが普通ですから、絵葉書やシート,図録が売っていればそちらを買うのが経済的です。大きく写真を引き延ばすと1枚1000円以上費用がかかることも考えると、シート・額絵・ポスターなどは安いと思います。
意外に忘れるのが美術館の外観写真です。結構記念になることも多いのですから、撮っておきましょう。 海外でも写真撮影は許可・不許可いろいろだと聞いています。フラッシュ・三脚禁止はあたりまえです。幸運にも撮影できるときは、現在は高感度の素子のデジカメは少なくないのですから、少々暗くても撮れるはずです。昔はフィルム(ASA400ぐらい)と明るい単焦点レンズの一眼レフ(ズームレンズは暗いので避けたほうが良い)以上のカメラで撮りましかも失敗してりしたものでしたが、良い時代になったものです。 これは常識だと思っていたら、西安のある博物館では、みんなフラッシュを焚いて展示物の前でポーズをつけて記念撮影するのだそうです。ガラス越しでフラッシュを焚くのでは、光が反射してしまって全く撮れません。まさか、偏光フィルターを使っているとも思えません。結果が虚しいだけでなく、展示物を傷め、真面目に鑑賞する人を妨害しているわけです。

Q
作品によっては、本によって名前が違うことがあります。どちらが正しいか知る方法はあるのでしょうか?

A.
題名自体が絵のなかに書いてあったり、古文書に載っていたりするもの以外は、最近整理のためにつけた名前も多いのです。例えば、18世紀以前のヨーロッパ古典絵画は題名がわからないものが多く、図柄を分析して、題名を近代につけたものが多いはずです。
そうはいっても、木彫仏像・風景画・人物・青磁碗というような名では1つのコレクションでも同じものが何点もでてきて不便ですし、「ス55786-8A」といった在庫番号を名前にするわけにもいかないでしょう。それで、やや長い名になっていたり、学者によって違う名前を使ったりします。でも、新しくつけるとき、あまり難解なものは避けるべきだとは思います。
また、中国の作品など、本来は中国語で読むのが正しいのでしょう。他の外国の作品も同様です。古来からの慣習的な読み方は尊重すべきでしょうが、日本語にない発音もありますし、日本語での正しい読み方を議論してもあまり意味があるとも思えません。受験参考書や教科書に採用するときは困るでしょうけれども、それは少数でしょう。



Q.
新聞、雑誌やテレビなどで報道される古美術品は、大抵、数億円とか、数千万円です。数万~数十万なんという値段のものはみんな偽物ではないでしょうか?

A.
非常に高価なものや国宝などは、マスコミの話題つくりとしてよいので、クローズアップされるだけです。そういうニュースしか一般紙などには報道されません。
例えば、1986年に、18世紀の中国染付陶磁器を1万8千点沈没船から引き揚げたゲーダーマルセン号引揚げ品のオークションの場合は、全部の売上が52億円です。52億÷18000個 = 29万円  です。これはかなり高過ぎたらしく、あとで値下がりしたそうです。この一事だけでも、何百万以上でない本物はざらにあるということがわかります。ただし、鑑賞価値のある優れた美術品かという問題はまた別で、古い本物でもあまり美しくないものもあります。

Q 陶磁器収集入門には、伊万里、次に李朝、中国陶磁器はその次と言われました。
最初に中国陶磁器を収集してはいけないのでしょうか?

A. それは、1970年以前の常識で、必ずしもあてはまりません。当時、中国陶磁器は、副葬品の拙劣な土器でも高価で、とても入門の人が買える値段ではありませんでした。
一方、伊万里(実は有田産)は、幕末以降のものなら日用につかえる値段でしたし、李朝陶磁器も、1級品や珍しいタイプのものを除けば、そう高くはありませんでした。また、中国陶磁器の厳格な美には、少しラフなスタイルを好む日本人の感覚がついていけないということもあったようです。
 そのため、伊万里→李朝→中国 というコースが設定されたわけですが、1980年代からの中国陶磁器の大量流出・韓国経済の発展。古伊万里の品不足によって、価格変動が起こりました。2000年ごろでは、価格的には逆で、中国(発掘品)→李朝・古伊万里の順でした。ところが、2000年以降に中国の経済発展に伴って、中国陶磁の価格も、特に明清官窯系統を中心に昂騰いたしましたので、2019年現在では価格的にはかなり変わっております。まあ、趣味にまで、そんな堅苦しい順序をたてる必要はないと思います。


Q. 絵画をしまいこんでいたら、紙の表面に黒や茶色のシミが点々とついてしまいました。ショウノウしみだといわれましたが、ショウノウなんか使っていません。これはなんでしょうか? また、きれいに戻すことができますか?

A.この点はカビの集落です。完全に戻すのは無理です。しかし、腕の良い表装師に頼めば、ある程度うまく洗ってもらえると思います。素人がやれることは、しいていえば、レンズ拭き用のスーパクロスのようなものや、細い柔らかいブラシで、集落をぬぐい取り少しでもめだたないようにすることはできるかもしれません。また、表装や回りの部分にもシミがついてしまい全体の印象を悪くしているのが普通ですから、本体以外の部分を捨て、再表装すれば、かなりきれいな感じになります。通風の悪さ と湿気、紙面の汚れが原因になることが多いので、ときどき広げて虫干しをし、乾燥剤も使うようにしましょう。湿気の多い日本ではカビの被害は宿命的なものですので、常に気をつけなければいけません。


Q.あるところで書をみせてもらっているとき、うっかり紙の上に手を置いてしまいました。乱暴に払いのけられたあげく、2度と来るなとばかりに追い出されました。
汚したわけでもないのに、なぜあんなに怒ったのでしょうか?

A. 手の脂やタンパク質がつくと、その部分が後年(数十年後ということもある)シミになることが多いからです。あまり器用でない人は極薄い手袋をすると良いでしょう。掛軸や巻物や画帖の扱い方は、丹青社のビデオで学ばれるのもよいでしょう。煎茶・抹茶をとはず茶道の先生に「道具の扱い方」を学ばれるのもいいと思います。つきあっている古美術商に教えてもらうという手もあります。
また、書画に対して、唾をとばしたり、咳をしたり、タバコを吸うのは論外です。マスクをするか、最低でも口にハンカチをあてましょう。
ちなみに、青銅器の場合も、薦められない限りむやみにさわらない方が良いのです。なぜなら、汗の塩分が着きますから、塩化銅ができ、ブロンズ病といわれる悪性の錆のもとになることがあるからです。普通土中でできる錆は炭酸銅、酸化銅、です。
お寺で秘仏を開扉するときは、紙マスクをつけて行う慣習があるそうです。そのように、文化財は慎重に扱いたいものです。


Q.きれいな印材をみせてもらうとき、腕時計をはずすようにいわれました。無礼だと思い辞去しましたが、これはどうしてでしょうか?

A. 腕時計の金属部分でキズをつけることが多いからです。印材はみかけよりもはるかに柔らかく、簡単にキズがつきます。半透明の材質なので白いキズが甚だめだちます。キズを取るにはキズがなくなるまで削るほかなく、かなり小さくなることがあります。
他の古美術品の鑑賞の際にも指輪・腕時計などをとるように心がければ、マナーの良い人だと歓迎されることでしょう。


Q.新しい部屋を飾るのに、シャガールのような明るく楽しくリトグラフでも入手したいと思っています。リトグラフにも本物偽物があると聞きますし、あまり予算もないのですが、どうしたらよいでしょう?

A.
部屋を飾るだけでしたら、メトロポリタン美術館・ルーブル美術館・オランジュリーなどの、大美術館が出している大型のポスターをお薦めします。シャガール・ルドン・ドラン・マチス・デュフイ・カサット・ローランサンの作品などに、明るい絵は結構あると思います。文字が入っているので、どうゆうときに制作されたポスターなのかがわかるのも話の種になります。海外旅行の時に買って郵送してもらうのもいいでしょう。もとの作品が偽物である心配もありませんし、価格は、日本の業者で買っても数千円~1万円ぐらいです。むしろ額のほうが高いでしょう。同じものを数枚買っておいて、壁に直接貼り、汚れたら取り替えるのも良いと思います。ポスターの場合、あまり仰々しい額は不調和ですので、縁が狭い地味な額がいいと思います。アクリル板で覆うだけの簡易な額もあるようです。


Q.「骨董品の価格なんてあってないようなもの」という意見があるのに、古美術商では「この手のものはこれくらい」といって、標準的な価格があるかのようにいってます。これはどういう事情でしょうか?

A.  
骨董商 古美術商は、交換会などの業者同士の取引をしょっちゅうやってます。そういう場で「相場」が形成されているんですね。最近は公開オークションによる相場も多少は影響がありますが、やはり業者間の取引が大きいようです。ただ、そういう相場も流行によって、どんどん変わっていくのは事実でしょう。
現在、鑑定「価格」といえば、英国のBBC放送主催「アンティーク=ロードショー」の影響を受けたらしい「鑑定団」番組が有名でしょうが、あの価格ってのは一体 売値か買値すらわからず、かなりいいかげんなように感じております。


Q. 錆だらけの青銅器を買ったら、あとで偽物だといわれました。こんなに錆だらけなのにどうして偽物なんてことがあるのでしょうか?

A.  偽の錆び、人工的な錆びで、古い本物だとみせかけることができますから。また、2000年前の青銅器に似せて500年前に作った偽作青銅器が土中に埋もれて発掘された物なら、錆びがありまくりですからね。


Q.油絵が薄汚れてきたので、「洗い」を業者に薦められているのですが、依頼していいものでしょうか?

A. 事前に修復業者の評判を調査したほうがいいでしょう。「洗った」結果、絵をだいなしにした例も何度も報告されています。また、事前によい写真を撮っておく必要があります。もっとも普通の修復業者なら必ず事前撮影をするはずです。古画の場合はX線、赤外線写真もとります。
洗浄・ニスの引きなおしならまだいいのですが、絵そのものを塗り直されて、裁判沙汰になった例さえあるものですから。

Q
展覧会で作品をみていたら、年輩の方から突き飛ばされました。展覧会では作品を鑑賞してはいけないのでしょうか?

A.
そんなことはありません。観賞せず立ちどまらないなら、外で歩けばいいのです。
正倉院展やツタンカーメン展など、を除けば、古美術の展覧会や専門美術館は、それほど混まないのが普通でした。最近TVなどで宣伝し、シルバー用無料入場券を配布するせいか、美術館など一度もきたことのなかった年輩の方が多く来場されます。それ自身は喜ばしいことですが、マナーも教養もなく、混むと通勤電車の中とまちがえるらしく、粗暴な振る舞いにでる方も多いようです。列に無理に割り込む、観賞者の前を平気で横切るなど日常茶飯で、大抵高齢の方です。
まねしないようにしましょう。
   



# by reijiyam | 2019-11-03 09:46 | ニュースとエッセイ | Comments(0)

中国美術全集 蘭亭八柱第三本の図版問題

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蘭亭八柱第三本、の図版で、中国美術全集 書法篆刻篇2  魏晋南北朝書法(Ref1)に掲載されているものがおかしい、という意見が、2011年 北京での蘭亭大展でのシンポジウムで中国人研究者から出た。

中国美術全集 書法篆刻篇2  魏晋南北朝書法  図版
http://reijiyamashina.sakura.ne.jp/lanting83a.JPG
http://reijiyamashina.sakura.ne.jp/lanting83b.JPG
この件は、伊藤滋先生から、2015年7月にご教示いただいた。

上イメージのように末尾についている綾上のの印が違う。右が中国美術全集本、左が北京故宮サイトイメージである。これは一番 はっきり分かる点である。印だけでなく、後隔水の綾の模様が違うこと、後述する点画の欠損があることなど、明らかに別物である。
   北京故宮博物院のサイトの蘭亭八柱第三本イメージ
    https://www.dpm.org.cn/collection/handwriting/228279.html (北京故宮のサイト)
  では、清朝以前に遡る古い墨跡本が二本あるのだろうか? 実は違う。 この図版は、二十世紀の不完全なレプリカを撮影した写真を、誤って採用したものだということを論証する。
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中国美術全集の図版をよく観察すると、文字の点画に欠損があるところがある。イメージに示すように、十三行の或、寄、放、浪が特によくわかる。末行の「者」にもある。一見、写真のキズや製版のときのキズのようにみえるが、実はそうではない。
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この欠損は、北京故宮のサイトにある八柱第三本の写真と比較すると、イメージ(右 が中国美術全集本)のように、蔵書印の朱線とピッタリ一致する。
 「或」字の丸い弧上の欠損は「石渠定鑑」の円形の線、 「寄」字にある縦の2本の空白線は、本来は「寶笈重篇」印の線があったところである。「放浪」の「放」字の欠損「浪」字の 欠損もやはり「重華宮鑑蔵寶」印の右縁線。「者」字の欠損は「石渠寶笈」印の右線のあとである。偶然のキズが、このように一致することはない。ただし、北京故宮のサイトイメージでは十分大きなカラーイメージをつくることができなかったので、一部、文物精華(Ref2)のモノクロコロタイプ図版で代用した。中国美術全集図版を北京故宮サイトイメージまで縮小すると、欠損が不明確になるからである。これによって、中国美術全集図版は、別に墨蹟がもう一本あって、それを撮影したわけではないということがわかる。仮にそういう墨蹟があったとして、そういう本の点画で、八柱第三の印の線に正確に一致するところで欠損があるということはありえないからである。したがって、この図版の原本は別本ではない。

この図版の、墨線のもとは、印の朱・赤をフィルターで消して焼き付け/印刷した写真である。おそらく、写真をもとに原寸大に焼き付けた紙に印を手で押して作った複製本だろう。もし、4色フィルター組み合わせのカラー製版なら、印が変わってしまうことはありえない。隔水の綾が変わるということは、別の複製本を作ってそれを撮影したものだと推理している。1990年ごろ北京故宮博物院を訪ねたとき宋元の書画は複製本・模写本が展覧されていた。そういうものの一つではないかとも推測している。

1985,6年ごろ、修理が行われたと口頭伝聞情報できいている。そのため、新しいカラー写真が撮れず、間違ってこの写真を採用してしまったのではなかろうか? 
 この図版のもとになった複製本の写真が撮られたのは修理の前である。なぜなら、八行末の「仰」字末画の欠損がまだ残っているからである。

  蘭亭八柱第三本を賞賛されていた啓功先生が関わっていて、どうしてこういう間違いが起こったのか、不思議である。ただ、この本では啓功先生は「顧問」であって、実際に編集したのは人民美術出版の別の編集者のようである。啓功先生の文章・解説は全く入っていない。この本自体は、興味深い資料が多く、これ1件でつまらない本だということはできない良書であるが、この件はダメだった。惑わされる人が出ないように、注意を喚起するために、この文を書くことにした。

Ref1. 中国美術全集編集委員会 中国美術全集  書法篆刻編2 魏晋南北朝書法 , 人民美術出版、北京、1986
Ref2. 文物精華編纂委員会, 文物精華 第3集, 文物出版社, 北京, 1964



# by reijiyam | 2019-10-28 04:50 | ニュースとエッセイ | Comments(0)

初拓 鮑燕造塔記

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 これは、原石が台東区書道博物館にある 鮑燕造塔記の拓本である。
 原石は、下のイメージのようなもので、北魏 太平真君3年という、早い時期のものである。この時期の北魏の碑刻は少ないこともあるし、なかなか変わった、愛らしいとでもいえる書法なので、当方も愛蔵している。これはどうやらまだ中国にあったころに採拓されたもののようで、現在の拓本よりはるかに明晰であるし、欠損箇所も少ない。ここで書品138号昭和38年3月にのっていた拓本とくらべてみる。初拓といって良いものであろう。 発願者の名前、この台座の名前は、この拓本でも多少欠損しているが、西林先生に従って、鮑燕と読むのが妥当ではないかと思っている。
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REF 書品、138号、昭和38年3月、東洋書道協会  写真著作権 消滅済み

# by reijiyam | 2019-10-26 09:25 | 蔵書 | Comments(0)

泰山刻石 重刻

  • 泰山刻石の重刻について、てもとの史料を紹介したい
まず、宋時代以降に「偽ごう(糸+降のツクリ)帖」に縮刻された見取り図のようなものは、意外なくらいみることが難しいものになっているが、結構貴重である。
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次に、泰山廟にあったものの一つが、この29字本の聶氏の重刻で、これは、梁章矩の重刻とは違いあまり迫真ではない。

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次に、高貞碑の裏に孫星エンが重刻したというものがある。高貞碑自身が文革中にひどく壊されたのだから、これが現存するかどうかは、わからない。
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そして、日記ブログでも紹介した梁章矩 刻、これは、まだ原石があるようであるREfに、原石面写真があるので現存しているようだ。

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イメージは、いずれも、戦前、三省堂書エン から採った。
Ref. 雑誌「墨」スペシャル十四号、中国碑刻紀行 1993

# by reijiyam | 2019-10-13 17:59 | 蔵書 | Comments(0)