山東の青銅器・考古品の大蒐集家 陳 介祺(ちん かいき、Chen Jieqi、1813年 - 1884年)の蔵書印には、どうも逝去後に、家人や後人が、家にあった拓本や印譜を売却するときに押したのではないか? とおもわれる偽印が結構あるようである。 その場合、陳 介祺 の本物の印を使った場合もあるだろうし、 中華民国のころに原印をもとにでっちあげた別の印を押したのではないかと思うものがある。 偽印だから拓本や印譜がダメなものというわけではない。拓本や印譜は本物だが箔付けのために、偽印を押したのではないかと、おもわれるものもかなりある。 陳 介祺の印を制作した王石経の印譜:瓶古斎印譜を基準に出来る。 上の一番目の印は真だと思う。左が瓶古斎印譜の印影。 おそらく真印とおもわれる漢時代の燈火器 の銘文拓本に押されたもの。これは満州貴族が所有していた拓本で、相当信頼できる。 2番目の例では、下の「海濱病史」はほとんど一致しているが、上の「ホ斎蔵石」は違うようだ。左が瓶古斎印譜の印影。 3番目の例では2個とも違っている。左が瓶古斎印譜の印影。 しかしながら、押された拓本それ自体はどちらも立派なものにみえる。 勿論、なかには、印も本体も箸にも棒にもかからないものもあるだろう。 #
by reijiyam
| 2023-12-28 06:37
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上イメージ::李文田の跋(ネットにあがっていた影印本から) 蘭亭偽作説のキーになった李文田の跋を含む汪中本定武蘭亭序の現物が大阪にあったことがあるらしい。どこかで読んだはずだと思っていたら、中央公論社 書道芸術にはさまった月報にあった。 こういう体験談は、忘れさられることが多いので、ここで引用しておくのは無駄ではないだろう。「国府の要人」というのは収集家でもあった藝珍堂 王世杰ではなかったか?? と推察している。なぜなら、東京国立博物館にある高島コレクションの宋拓 許彦先 本蘭亭序に王世杰 の印があるからで、王世杰が定武蘭亭に一時関心があり、その後関心が薄れ手放したのが推察されるからである。また、興味深いことに、この許彦先本と 汪中本は同石ではないか?と思われるところがある。 書道芸術 豪華普及版 月報1 第一巻付録 昭和54年9月。中央公論社 今井凌雪 郭沫若氏の蘭亭偽物説について > 私の友人の中国人が先年顔を見るたびに蘭亭はいらないかという。わたくしは「蘭亭は太普遍(タイプーピエン)だ」といって、よい加減にあしらっていた。そのうちに電話がかかってきて、前に言っていた蘭亭を香港からもってきたから見に来いという。早速出かけて見せてもらったのだが、これが何と前記の李文田の跋のある汪中旧蔵の定武蘭亭であった。はじめに汪中の像が書かれてあり、跋文もともに覆刻した拓本と一つの箱に入っている。びっくりして、その伝来を聞いたら、国府のさる要人から手に入れたもので売ってもよいという。無理してでも手に入れようと思っていろいろ聞いたが、わたくしなどではどうにもならぬ値を考えているらしい。何しろ入手したときに1万銀元だったそうである。 この文を依頼されて、もう一度、李文田の跋だけでも写真にと思って先日出かけたら、もう今は台湾へ持って行って大阪にはないという。翰墨因縁というものはこんなものかとがっかりしながら帰ってきた。 > 郭沫若氏の蘭亭偽物説について、から引用 > 本月報は、昭和50年4月初版刊行時に若干の補正を加えたものです。 > #
by reijiyam
| 2023-12-26 08:11
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喬松平遠図 澄懐堂文庫 には 次の題簽がついているそうです(ref1)。 宋李營邱喬松平遠圖 怡邸明善堂藏眞本 西泉庚辰得于京師海王村 ホ(竹+甫+皿)齋審定竝題 「ホ(竹+甫+皿)齋」(朱文長方印) [ [怡邸明善堂]ってのは、清朝皇族の怡親王邸宅のこと。 「海王村」というのは北京の古書店骨董街である瑠璃厰のこと。 「王西泉」は、篆刻家 王石経のこと。「庚辰」は1880年です。 「ホ(竹+甫+皿)齋」は山東の青銅器・考古品の大蒐集家 陳 介祺(ちん かいき、Chen Jieqi、1813年 - 1884年)のこと。毛公鼎ももっていた人です。 陳介祺の著書が印刷されたのが中華民国時代だったのが多かったせいか、「民国の陳介祺」とか呼ばれてまちがわれていることが多いんですが、1884年逝去ですからね。完全な間違いです。 王石経は陳介祺の印を彫っていますので、おそらく地方都市にひっこんで陳介祺のために、代理人として買い付けなども行っていたのだろうと思います。 陳 介祺の手紙集(ref2)のなかに呉雲(1811-1883)への手紙も何通もあるのですが、 同治11年9月4日の長い手紙の中に、自蔵の書画をリストして自慢しています。いうまでもなく、喬松平遠図は入っていません。これを買う何年も前のリストですからね。 これみると、意外と日本にきているものが多いんですね。 そのリストを転記してみます。 ************ 唐王維伏生授経図巻 大阪市立美術館 旧阿部コレクション 宋李唐小江南春巻 文与可竹三(一無款)(極思得東坡、仲圭、禹玉竹) 宋元執扇集錦。 朱文公札巻。(真跡) 黄山谷書巻。(伏波神祠詩巻) 馬和之畫毛詩、(高宗書) 元 王叔明楽志論巻、天香深処巻 夏山高隠軸 趙蘭倪竹合巻 雲林小景 二軸 方方壷江山秋興巻 趙松雪馬軸 ************* わかる範囲で各作品を追ってみます。 唐王維伏生授経図巻は、大阪市立美術館 旧阿部コレクション 宋元執扇集錦 ってのは、 名画集冊という名前で李佐賢の「書画鑑影」巻十にのっているものじゃないか? 名賢寶絵集冊という名前で李佐賢の「書画鑑影」巻十二にのっているものじゃないか? よくわかりません。。どちらも「陳寿卿」所蔵と記載されています。 黄山谷 伏波神祠詩巻は、 永青文庫にあります。今回 北宋書画精華展にもでてました。 馬和之畫毛詩、(高宗書) これは複数あるこの手の絵巻のなかで最優とされるもので、 藤井斉成会有りん館 にあります。 王蒙の「天香深処」 という画題の絵は複数遺っていますが、天香深処「巻」なので、巻子です。 近年 クリスティーズで売り立てられたこれが 箱に 陳氏の銘文があるそうなので、該当物件だと思います。 王蒙 天香深処 https://www.christies.com/zh/lot/lot-6112128 2016年 クリティーズ 一方、日本で昭和初期から知られていた「王蒙の 天香深処図」は縦長の掛け軸で、もと斎藤董庵のものだったので図録にも掲載されていてため知られていたようです。 2018年 NY サザビーズででてました。 https://www.sothebys.com/zh/auctions/ecatalogue/2018/fine-chinese-paintings-and-calligraphy-n09907/lot.607.html Stephen Junkunc, III (d. 1978) 旧蔵 2点とも、それほど良いものにはみえません。 王蒙の 夏山高隠軸 はおそらく、現在、北京故宮博物院にある軸でしょう。 https://minghuaji.dpm.org.cn/paint/detail?id=7cf073857d4e46c89b499b19c99a0115 ただ、そっくりの軸が、もう一つ、張大千寄贈というもので、台北 国立故宮博物院にもあります。 贋作者としての張大千を考えると、どうも信用がおちるので、あまり展示されないようです。 でも、そうとう精緻な絵ですね。 https://digitalarchive.npm.gov.tw/Painting/Content?pid=19382&Dept=P 趙蘭倪竹合巻ってのは、 趙文敏倪高士合巻という名前で李佐賢の「書画鑑影」にのっているものですね。 李佐賢の「書画鑑影」は、道光同治時代の貴族富豪の収集を記録したもののようです。 李佐賢は陳介祺と同じ山東省出身ですし、古代貨幣蒐集もやっていて研究書もありますから、陳介祺と交友あったみたいですね。「書画鑑影」にも「陳寿卿」所蔵と記載されているものがあります。 Ref1. 關西九館所藏 中國書畫録I、関西中国書画コレクション研究会 2013 https://kancol.jp/img/file4.pdf REF2, 秦前文字之語、 斉魯書社、1991 #
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| 2023-12-19 03:28
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北宋書画精華 展で、わりと良かった喬松平遠図(澄懐堂美術館)だが、宣伝動画で「李成という落款がある」と名言していたし、図録解説にも「左下に李成の偽款がある」と書いてあったので、本当にあるのかどうか疑問に思って
大和文華館 宋代の絵画 特別展 のときに購入した大きな ポスターを細かくみたが、、 見つから無い。 よほど小さくて紛れているのか? それなら范寛の谿山行旅図のサイン(下イメージ)のような隠し落款でかえって本物くさいな。あるいは落款といっても小さな印影でよく読めないのではないか?? と思った。 一応、ポスターから作成した左下の部分画像を上にあげておく。 絵の実物自体は汚れや補修も多いが、郭煕風の描き方が目立つなかなかの佳作だと思う。 前は元?と思っていたが、今回みると宋でよさそうだ。宋の絵画というと残存が少ないので、どうしても小品を拾い集めるような感じになるのだが、当時だって大作は多かったはずだ。ただ避難が難しく残っていないだけである。 范寛の谿山行旅図 初め台北には大きな宋画がいくらか残っているのだから。 #
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| 2023-11-26 09:14
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王秀仁は、西レイ八家印存の制作で、名前が残っているようだ。画家収集家の呉湖帆と関係が深かったようだ。しかし 当時、そうとうひっぱりだこであちこちで拓本などを制作していたようである。 葉恭しゃく のところで毛公鼎 拓本も制作している。これは全形を原大に一紙に印刷したものからとった印影で 「王秀仁手拓金石文字」 貧架にある爵の拓本は「爵」としては例外的なくらい長文銘のものである。一応「三代吉金文存」収録銘なので、真っ赤な偽物というわけではないだろう。 この器形拓本に別に取った銘拓本を貼り付けたものがこれなんだが、やはり王秀仁の制作であり 「秀仁手拓」となっている。 #
by reijiyam
| 2023-11-12 14:14
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