20年くらい前、東京で、店の人に邪魔だからタダであげると言われた汚い拓本冊が3つあった。皆、重刻模刻で確かに売れそうもないものだらけだ。鄭道昭鄭文公下碑の模刻はあまりにもひどいものだったので捨ててしまった。残りの夏承碑の重刻模刻2冊は、もともと原石拓真本は世の中にないのだからと思い返して、自分で装幀を整え、自ら修理までしたあげく、今までもっているのは物好きとしかいいようがない。
この夏承碑、名前だけは有名で古い古い時代の本にはあげられたりしているが、原石拓本らしいものが世の中に1本も無い。観ることができるものは、どうも下手にしかみえないしょうもない拓本ばかりだから、20世紀になるとだんだん皆が無視するようになり、いつしか忘れられていった。まあ、それも良いことだと思う。ただ、イメージが全くないとかえって誤解がはびこったり、だまされる人もでてくるから、ちょっと紹介しておく。 1番目のものは、嘉靖重刻本というものらしい(もらった本を徹底改装した)。確かに最後に重刻したという跋が彫ってある。ただ、重刻の更に重刻ということもありうる。2番目のもの(もらった本をきれいにし裏表紙とりかえ)は、もっとひょろひょろしているが、有名な臨川李氏本には、こちらのほうが嘉靖重刻本より近い。しかしとても習字する気にはなれないものである。3番目のイメージは、書道博物館にある伊秉綬の審定印がある拓本で、戦前発行の三省堂書えんからとった、こちらはまあ、善本らしい。最後に断片のようなものがある。これは、碑帖研究家の王壮弘さんが夏承碑の断片だと推定している(REF 増補校碑随筆)もので「君子等残石」と名前がついている。戦前 「金石佳好楼」から石印で出版されたものである。拓本も一度売ってるのをみたことがあるが、敢えて買う気はしなかった。しかし、これってホントに夏承碑原石の断片なのだろうか??どうも違うのじゃないか?と考えている。 近年、出土した王舎人碑というのが、書風の上で夏承碑と似ているとされるので、こういう変わった感じは後世重刻を繰り返して歪められたというより、もともと特殊な書風なのだろう。
by reijiyam
| 2009-03-08 09:40
| 蔵書
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