玲児の中国絵画入門 14  仇英





鳥瞰図で文字だけであげたものを実例で絵解きする続き。
ただ、これも、あまり しっかりした解説ではなく、ゆるい感想程度ね。


  文徴明と交際もあった仇英(1494?-1552頃)は、純然たる職業画家ですが、逆にそれ故に個人的記録が少なく、文章には書きにくい感じがします。 割と早く亡くなっているようなので、晩年作というべきものはないでしょう。壮年作までが全てです。

  とにかく、美しい豪華な作品がたくさん残っており、人気も高いので、サリバン先生によれば、
>かれ(仇英)の見るからに楽しい絵画は中国でも西洋でも愛好され、そのためもあって中国美術史上で王石谷に次いで贋物の多い作家であるといえよう。
だそうです。日本にも仇英といわれる絵は結構ありますが、京都知恩院所蔵の奇跡的な双幅(金谷園図と桃李園図)を除けば良いものはないようです。強いていえば、かなり傷んでいますが東京国立博物館の山水画がまあ良いほうでしょう。

去年 台北國立故宮博物院であった仇英展は残念ながらいけなかったのですが、出展された作品はだいたい見ているようです。

   既に、玲児のの中国絵画入門 1 中国絵画のイメージ
で、仙山楼閣図(台北故宮)を挙げておきました。

 他の代表作としては、ネルソンの潯陽送別図巻と台北國立故宮博物院の東林図巻をだしてみます。潯陽送別ってのは白楽天の琵琶行の冒頭の部分ですね。シカゴの桃源図巻との関係がいわれていましたがシカゴのものはカラー図版でみる限りあまりよくないようなので、こちらをみなおしました。台北國立故宮博物院の東林図は、台北で似た絵柄のものと比較展示「伝移模写展」で実見して、その質の高さを感じましたので、そうとう良いと思います。


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  これらをみると仇英は、中国の資産階級上流階級が夢見る理想的生活を絵画として具現化しているもののようにおもわれます。そこには仏教的な極楽や道教的な仙境はなく、神秘性や彼岸へのあこがれ、超越的なものへの賛美はなく、至って現世的で即物的で豪華で、しかもある倫理性と審美性をもった生活・世界を画面に現実化しています。これが歓迎された理由ではないか?と思います。中南海でも愛好されそうですね。

  一方、巨大な水墨淡彩の人物画も描いています。下のイメージの桐蔭清話(台北國立故宮博物院)は、まさにそれで高さ2,7mもあります。
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  また、ケーヒル先生は、「江岸別意」(新藤武弘  小林宏光 訳)で
>仇英の他の作品と同様、画面上に表れていることがその意味内容のほとんどすべてなので、画中のことを具体的に説明することはできても、分析して論じるのは容易でない。
と書いているのは非常に深いところをついている見解だと思います。また、
>仇英が様々な画風を再生する多彩ぶりを見ると、仮に、項元汴がイタリアルネサンスの肖像画をかれに見せ、画材とそれに慣れるため一両日の時間を与えたならば、かれは十五世紀フロレンス貴族の格好をした項元汴の肖像を見事に描き上げたのではないかと思う。
とも述べていますが、これは、この本で一番印象的な文章でした。

  そういう仇英なので、個人的な顔が全くみえないんですね、絵に付属したサインと印章以外に、仇英の言葉・文章すら残っていないと思います。
  ただ一つだけ、気になるのは黄山谷の標準作 松風閣詩巻(台北國立故宮博物院)の末尾に仇英の印が2つあることです。ひょっとしたら、この劇蹟は仇英が掘り出して項元汴にもちこんだものなんでしょうか? その場面を想像すると、かろうじて仇英の顔がみえてくるような気もします。

by reijiyam | 2015-04-13 08:47 | 中国絵画入門 | Comments(0)
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