玲児の中国絵画入門 6 ネルソン クリーブランド展

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東京へ移ってからは、東京国立博物館に通って東洋館の中国書画の常設展をみていた。当時、中国書画を常設!していたのは、日本中でここだけではなかったか?それに、比較的信頼できそうなところもいい。
 
 その東京国立博物館で、1982年10月5日~11月17日に開催された特別展
「米国二大美術館所蔵 中国の絵画」(イメージ)は画期的なものだった。

  現実問題として、これを観た経験と台北國立故宮博物院での経験が私の基準になっているといっても過言ではない。それほどの衝撃があった。残った切符半券を数えても五枚あり、たぶんそれ以上いっているから6回以上は行っていることになる。

  これは米国のカンサスシティーのネルソンアトキンス美術館とクリーブランド美術館が共同で開催したもので、 まず、カンサスのネルソンアトキンス美術館で1980年11月7日~1981年1月4日、次に、クリーブランド美術館で、1981年2月11日~3月29日に開催した。1981年10月に東京にもいくことは当初から予定されていたらしい。 この展示は、東京国立博物館の本館の2F全部で開催された。はっきりいてガラガラで、もったいなかった。

当時の東京国立博物館ニュースを引用すると「281件を陳列し、周~漢時代から清時代中期に至る中国全時代の系統的観賞の機会とした。北宋山水画の傑作や日本に優品の少ない元明清時代の文人画など、これら中国絵画本流にあたる作品の優品はよき眼福の折となり、」である。

 まあ、「周~漢時代」というのは大げさで南北朝時代までは少数の考古品のみ、有名な石棺石刻画も拓本のみだったし、唐時代として確かなものはなんと日本人旧蔵の敦煌出土の画稿・落書き だけだった。しかしながら北宋~清の末期大変天国の乱直前まで系統的にまともな作品が鑑賞できたのは驚異的だった。古原宏伸氏は当時 ミュージアム379号に「中国絵画の復権」という文章を書き、数点をあげて議論したあと、「批判がましいことをいえるのは、ほとんど以上にすぎない。二つの大収集を対象としたとき、これは驚くべき質の高さである」と絶賛していた。これを読んだとき、これは基準作にできる展覧会だ。無理しても通わなくては、と思ったものだ。

現在では、この言葉を文字通り真に受けることはできないが、それにしても粒が揃っている。仮に模本や贋作であったとしても、いかにもその時代その画家風のものであって、モネの絵をボッテチェルリにしてしまうようなムチャクチャなことはない。従来、中国絵画ではそういう無茶が平気で行われた。

訂正すべき点をいうと、
 クリーブランド美術館  雲山図巻の自題というような問題があるし、仇英の素晴らしく美しい潯陽送別図巻もどうもシカゴ美術館所蔵の桃源図巻から派生したものというの議論もある。 しかし、281件という量では、いくらか問題があるのはあたりまえである。普通の展覧会だと問題があるもののほうが多くて、素直に観賞できるもののほうが少ないという場合すらあるのだ。

 この展覧の特色として挙げられることは、明時代の作品が充実していて、しかも名のある画家の傑作と思われる作品が揃っていたことだ。文徴明の枯木図も良かったし、沈周文徴明合璧図冊も良質だった。董其昌の代表作といっても良い作が並んでいた。呉彬の五百羅漢図巻も壮大な作品だったし、クリーブランド美術館の明後期の丁雲鵬(1547-c. 1621)の玄コ出雲天都暁日図(Morning Sun over the Heavenly Citadel Peak, Ding Yunpeng 所蔵番号1965.28)は驚異的な作品で、会期の最後にはこれと許道寧「秋江漁艇図巻」だけを観にいったようなものだ。考えてみれば私の仙境図好みにあっていたのかもしれない。

また、清初の八大山人の作品も素晴らしく、法若真の雪山図巻はものすごいものであったし、日本も多いキョウ賢の作品だが、ここに展示されたような優れた画册(もと日本にあった博文堂で影印)や、壮大な2つの画巻のような傑作があるだろうか?と思う。

 これらによって、なんとなく植え付けられてきた「宋元画だけが素晴らしく明清画は堕落していて劣っている。」という先入観・迷信が「実物によって」、私の中で殆ど打破されたのが何より良いことだった。

 あまり感動したので、高かったし後日受け取りであったが英文カタログ(下イメージ)も買った。これがまた美術全集の一巻ぐらい重くて分厚く、しかも情報量が多い。あとで気がついたが、ミュージアム380号に掲載されたマークF、ウィルソン「馬遠筆画巻について」という論文は、書き下ろしの寄稿かと思ったら、なんとこのカタログの作品解説文を翻訳したものだったのだ。つまりこのカタログは論文なみの解説がどっさり詰まっているということになる。それに気がついたあと巨然谿山蘭若図の解説の翻訳を試みたりした。カバーは呉彬 五百羅漢図でこれも美しい。

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by reijiyam | 2015-03-31 10:14 | 中国絵画入門 | Comments(0)
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