昨年9月にピーテル=ブリューゲル(-1569)の大作がほんとに発見されたようだ。息子もピーテル=ブリューゲルというのがいて紛らわしいが有名なほうのピーテルである。 だいたい、マスコミにでる、こういう有名画家の作品の新発見はいかがわしいものであることが多い。大抵は、かなり怪しい作品を一人の学者が思い込みで真作と主張することが多い。多数あるコピーの一つを誤認することもある。たとえ真作でもできが悪くどうでもいい作品だったり、破損や修理がひどく原形をとどめていなかったりする。まあ、ピカソやルノワールぐらいの時代の画家なら大作が発見されることもあるだろうが、100年も前から有名なブリューゲルのような画家の場合は、まず無理である。もっとも、ラトゥールのように比較的近年に再発見された画家ならまだみこみはあるが、ブリューゲルは無理だ。 今回は、その「まず無理」「まずありえない」ことが起こったといっていいだろう。 「聖マルティンのワイン」と題する縦148センチ、横270.5センチの大型のテンペラ画。スペインの個人が所有していた絵をプラド美術館が数カ月間かけて分析し、真作と断定した。プラドというかスペイン国家が、先買い権(重要な美術品を国外に出すとき優先的に国家が買える権利)を利用して10億円ぐらいで購入したようだ。 ネットで入手できる最も大きなイメージはウィキメディアにあった **最も大きい精密なイメージ:The Wine of Saint Martin’s Day(wikimedia) (2.5M) 昨年の9月28日ぐらいに、日本のマスコミで報道されたらしく、またブログにも記述があるが、間違った情報も多いので、 プラド博物館が詳細な報告を書いている文書 The Wine of Saint Martin’s Day. Pieter Bruegel the Elder ,PRADO(英文)をもとに、指摘しておく ・麻布にテンペラで描かれたもの、ブリューゲルでは、ナポリのカピディモンデにある「盲人の寓意」「人間嫌い」、ブラッセルの「三賢王の礼拝」がそうである。こういう作品はあまり残っていないが、どうもタペストリーの代用品として使用され、傷んで消滅してしまったもののようだ。ロンドンにはディエルク・ブーツの同様な作品もあるが、洗濯したように色が薄くなっている。ブラッセルの「三賢王の礼拝」もボロ布状態であるから、比較すればまあ保存がいいほうかもしれない。上部などそうとう色がおちているようだ。 ・左下にサインが発見されているが、それもかなり自然である。 ・もともと、スペイン王のナポリ代理として勤務した貴族の血筋に伝わったものであり、1703年にスペインに帰国しているので、そのときにもってきたものだろうと推理されている。ブリューゲルからは100年以上あとなのでこの絵も色々曲折があったはずであろう。 ・大きな断片でやはり、テンペラで麻布に描いたものがウィーン美術史美術館にある(上のイメージ)。プラドは、こちらは質が落ちるので、コピーの断片だろうと言っている。なんとも言い難い。ボスの「干し草の車」のようにほぼ同じものが2点あるということは少なくないからだ。ウィーンにあるのは、もとレオポルド大公のコレクションにあったものだろう。 ・ブリューゲルの四代目の孫であるアブラハム=ブリューゲル(1631-?)はナポリに住んでいたが、この絵の版画をローマで出版している(イメージ)。版画は左右反対の鏡映になっている。これはブリューゲルのデッサンと版画の関係はたいていこうで鏡映関係にある。彫版のつごうなのだろう。もとナポリ王代理をやっていた人のコレクションだったのだから、この絵はアブラハムがもっていたものを入手したのかもしれない(推測)。 ・ブラッセルの王立博物館には板絵でのコピーがあり「A.B.」と頭文字があるそうで、プラドはアブラハム・ブリューゲルのコピーだと推定している。 ・アントワープにいた、BALTENS, Peeter (c. 1527-c. 1584)によるコピー(少し違うところもある)があるので 、ブリューゲル死後までアントワープ周辺にあり、アブラハムがもってイタリアに行ったのかもしれない(推測)。 ・プラド美術館は、マントヴァ公ヴィンチェンチオII世ゴンザーガのコレクションにあった作品という推測をしているが、そうするとアブラハムとの関係はどうなるのかな?と思う。 聖マルティンの日ってのは11月11日で、ちょうど新しいワインがでるころなのだが、それにしても、ベルギーでワインなんかつくっているのだろうか? メムリンクの祭壇画にもワインの樽を輸入しているところがでてくるから、当時もあまり作っていなかったのではないか?と思っている。 これは、かなり人工的な作品だと思ったほうがいいと思った。
by reijiyam
| 2011-03-06 12:42
| 日記
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