正倉院鏡の左横書き

  正倉院に、彫刻した銀板を背面に貼った大きな鏡がある。南倉70の1である。今は、金銀山水八卦背八角鏡と呼ばれている(正倉院の金工、週刊朝日百科世界の美術)が、もともと古代の名前札がついていたわけではないし、八世紀の文書にも入っていないわけで、まあ適当に明治以後名前をつけたのだろう。当然、いつどこで制作され、いつ正倉院に入ったのかもわからない。

 こういう銀板を貼った鏡は、中国からも出土していて、白鶴美術館、天理参考館などにみごとな例がある。ただ、多くが高浮き彫りのように模様を打ち出しているものが多く、この正倉院の鏡のように線刻だけというのは珍しいと、金工の専門家もいっているようだ。また、大きさとしても最大級である。

 これの写真をみていて、違和感をもって気づいたのは
「銘文が左横書き」
であることだ。鏡の銘文で「左横書き」というのは他にみたことがない。

  一体これはどういうことだろう。

  線刻だけという技術的な異風も併せて考えると、中国産ではないのではなかろうか?
  しかし、模様のパターンなどは明らかに中国の道教仙境風の作である。また、銘文自体はたいして上手とはいえなくても一応詩になっている。文字の書風についていうと、こういう金工の小さな文字は北魏時代から書風的には似たようなものになりやすいので、時代を判断し難い。

  中国産でなくても、カンボジアやペルシャで制作されたものではないだろう。少なくとも漢字文化圏での制作だ、とすると、日本での制作、あるいは渤海か?と考えたくなる。大きさが大きいというのも、古墳時代の日本で中国では実用性がないからまずつくらない巨大な鏡を制作したことも考えると日本製という線も強いと思う。

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by reijiyam | 2010-07-18 10:35 | ニュースとエッセイ | Comments(0)
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