矢代幸雄の述懐

e0071614_7563714.jpg
 
 これは、なぜか
 ・忘れ得ぬ人びと : 矢代幸雄美術論集1 / 矢代幸雄∥著 / 岩波書店 , 1984.2
  に収録されなかった、前置きの文であるが、なかなか読ませるので忘れられるのは惜しい。
***引用***  大和文華 14号 昭和29年6月 ***
  歴史を作るものは結局人である。人の事績の大切な点を適切なる判断を以って知ることは、歴史の精髄を具体的に知ることである。私はその意味で、誰かの人生の事実に即したる回想録(メモワール)的文章を読むことを喜びとするが、また顧みれば、私自身も昔を語りうる年齢に達したと思われる。私の接触した人々に思いがけず偉い人もあり、またその事績を伝えておくことが将来の人々のためになる場合も、屡々あるような気がする。近頃の若い人々を見ると、大戦争が挟まったせいか、実に昔の事を知らず、また知ろうともしないかの如き様子がある。これは現代のはげしい時勢の進運とも言えるが、また知らないために随分損をしている場合もある。何となれば、人間は過去の上に立ち登って、更に向上するからである。
 私の記憶のうちに去来する忘れ得ぬ人々は多いが、本稿に於ては美術界に功績ある人々に限ろうと思う。そうすると、私は当然本稿を、私を育ててくれた故正木直彦先生を以って始める可きである。然し正木先生の日本美術界への影響力は大きく、また先生と私との一生涯を通じての接触も、容易に書き得ることではない。それで私は非常な大物である正木先生を後廻しにして、珍しい大学者であったにも拘わらず、今は比較的人に忘れられ勝ちの大村西崖を先づ最初に取り上げることにする。
***(新字新かなに変更したのは、引用者の責任)****

「実に昔の事を知らず、また知ろうともしないかの如き様子がある。」近頃の若い人々こそが、現在、自分の無知と不勉強を棚上げにして「近頃の若いものは」ともっともらしく言っている連中である。
by reijiyam | 2009-05-13 07:57 | ニュースとエッセイ
<< セン塔銘 その3 セン塔銘 その2 >>